誤解された犯罪 

性犯罪で、国ごとの定義や犯罪の種別の傾向の違い(満員電車がないところでは痴漢はしにくそうですねとか)もあるので、単純な比較ができないということはあるのでしょうが、議論の前提となる治療に関しての後追い研究がちゃんとあるのは良いですなあ。
 FBIの性犯罪者登録サイトも眺めましたが、地域ごとに特定されて、眺められるようになっていると、社会的に復帰できるのか、やはり治療も含めての定期的なケアが必要なんじゃなかろうかと思われました。

以下訳。
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誤解された犯罪

 性犯罪は強い嫌悪や不快な感情をかきたてるので、その本質を見誤ることは驚くようなことではない。マスコミや大衆文化での描写に世論は誘導されており、性犯罪者は未来永劫性犯罪を繰り返し、治療も効き目がないとされている。本当のところはそこまでスパッと切れて、ドライなものでもなくて、場合によっては希望もある。
 世論として述べたことを論ずる前に、基本的なことを列挙する。性犯罪の主要なものは強姦と児童へのいたずらの二つだが、他にも存在する(訳注:別の囲みコラムにおいて性犯罪を分類しており、強姦、児童への猥褻行為、近親相姦、露出、覗き、痴漢といった用語の列挙と定義を行っている)。殆どの場合は、被害者(大抵は女性である)は加害者(大抵は男性である)を知っている。統計によっては、性犯罪者の1/3は18歳以下で場合によっては5歳もいること。性犯罪は思春期に始まるのだ。さて、研究からは「世間の常識」に対してどんなことがわかるのだろう?

再犯者たち
 まず第一に再犯は防げないという考えは再考しないといけない。最近、フロリダのリン大学の性犯罪研究のジル・レヴェンソン達は、世間の人々が、性犯罪者の75%位が再犯するだろうと考えていることをまとめた。この考えはアメリカドラマ『性犯罪特捜班』(原題:Law and Order:Spexcial Victims Unit)のようにメディアにおける、性犯罪者は慢性的に再犯するという描写と一致するものである。実証はそうでないことを示唆する。性犯罪研究者のR. カール・ハンソンとケリー・E・モートンブルゴンはカナダ公安省所属で、成人の性犯罪者の再犯率について追跡調査を行った。彼らの調査によれば、5−6年では14%、15年になると24%に到達した。この数字は世間のもっと深刻な予想とは大きく外れたものである。
 メディア描写とは異なり、ほとんどの性犯罪者は一種類の性犯罪に「特化」するわけではない。ほとんどは「何でも屋」で、性犯罪もそうでない犯罪もするのだ。ハンソンとモートンブルゴンによれば合計の再犯率は(性犯罪とそうでない暴力事犯)5−6年で36%である。しかし、性犯罪の種別によって、再犯率は異なる。15年での再犯率は近親相姦では13%、強姦では24%、少年が被害者となる児童へのわいせつでは35%であった。
 一般的に思われていたのよりも低い再犯率が明らかにされているが、過剰に単純化しないようにしなければならない。再犯の研究は重要なだけでなく、困難なものなのだ。例えば平均の率からは一回かそれ以上の再犯をしたことがわかるが、凄まじい回数の再犯をしているような集団も把握しなければならない。それに加えて、公表されている知見は本当の割合を過小評価していると考える理由もある。ほとんどの研究は必然的に、捜査や逮捕をされなかったり、被害者が告発しなかったりする性犯罪者を見落とすことになる。さらに、多くの性犯罪者は、性犯罪でない犯罪への司法取引に応じるのだ。
 とはいえ、再犯率が研究者が調べたものと異ならないと信じる理由もある。しょっちゅう繰り返す犯罪者はそうでない犯罪者よりも捕まりやすい。多くの保護措置は再犯率をおさえる助けになりうる。保護観察つきで釈放された性犯罪者はきっちり観察下におかれ、再犯の可能性が高そうな犯罪者は公共機関への登録を要求される。この登録は担当部局の執行の役にたっている。最終的に、政府は合法的に高リスクの性犯罪者を特定を要求される。米国司法省は
http://www.fbi.gov/hq/cid/cac/registry.htm
サイトを作り、誰にでも犯罪者の識別と場所の特定ができるようにしている。
 研究とその限界を考慮にいれても、将来は変わるのかもしれないけど、世間でよく言われる非常に高い再犯率というのは正しくはなさそうだ。

治療の現実性
 もし再犯が世間で思われているほどしょっちゅうではないとしたら、治療の成功や失敗への印象については説得力はあるものなのだろうか?レヴェンソンたちは世間の人々の半数が性犯罪者への治療は無効で、再犯を防ぐことはできないと信じているとしている。しかし、性犯罪やそうでない犯罪について、治療が明らかに有効であるとする研究がいくつもある。ハンソンたちは治療に関する追跡調査を行い、治療を受けない性犯罪者は17%の再犯率で、受けた方が10%であった。性犯罪とそうでないものを組み合わせると、非治療群では51%、治療群では32%の再犯率であった。治療のしない場合に比べての優位はそれほど大きくないように見える。というのも、追跡調査で集団でみているため、治療が大きく効果のある人と、そうでない人がいるという事実をぼやけさせてしまうからである。この追跡調査の結果は、まだ研究の発展の余地があるということも示しているかもしれない。より最近の研究では以前の研究で示されたのよりもより大きい治療効果が示されている。
 ほとんどの働きかけではいろんな治療を採用している。主要なものには二つのものが含まれている。認知行動療法で性犯罪的な思考や行動、興奮のパターンを変更させるものと、再発予防によって性犯罪者に再犯につながるような怒りや孤独といった感情などの問題を受容し克服することを教えることを目的とするものである。
 性犯罪者への治療はまだ発展途上にあるものの、治療は有意に違いが出ると研究でも示されている。性犯罪者はみな恐ろしい犯罪を繰り返すように宿命付けられているわけではなく、そして、大衆、政治的指導者、立法者の活動を通して、こういった治療への研究を援助することでより希望をもてるようになるだろう。